国内ワイナリー数・日本ワイン製成量で日本一といえば、真っ先に名前が挙がるのが山梨県です。
しかもこれ、たまたま今年1位だったわけではありません。日本のワインづくりそのものが、山梨県ではじまったのです。
その中心を担うのが、甲州市。県内ワイナリーの半数近くがこの1市に集まっており、地元では“日本一のワイナリーの街”と呼ばれています。
なぜこれほど一つの街にワイナリーが集中できたのか。歴史を紐解くと、明治のはじめ、フランスへ渡った二人の青年の挑戦にたどり着きます。産地の中心地、代表するブランド、そして今のトレンドまで、じっくり深掘りしていきます。
山梨県がワイナリー数・ワイン製成量日本一である理由
まずはデータから見てみましょう。
山梨県統計によると、県内のワイナリー数は89場で、全国493場の18.0%を占め全国1位。
日本ワインの製成量も4,278kl/年で、全国の29.9%、およそ3割を山梨県1県だけで生産しています(出典:山梨県「にっぽん一」統計)。
実は、このシェアは近年になって急に生まれたものではありません。山梨県は「日本ワイン発祥の地」を名乗っており、その歴史は明治時代までさかのぼります。
明治3年(1870年)、新政府の殖産興業政策のもと「ぶどう酒共同醸造所」が設立され、明治10年(1877年)には勝沼町(現・甲州市)に日本で初めての本格的なワイン醸造会社「大日本山梨葡萄酒会社」が誕生しました(出典:山梨県「日本のワイン生誕の地」)。
つまり、150年近く前からワインづくりの中心地であり続けているという“殿堂入り”レベルの継続性が、今の日本一を支える土台になっています。
では、なぜ山梨県の中でも、これほどワイナリーが集まった街があるのでしょうか?
産地の中心は甲州市。始まりは二人の青年のフランス留学でした
山梨県内のワイナリーは、甲州市と山梨市がある峡東(きょうとう)エリアに集中しています。
甲州市には約40のワイナリーが所在し、単独の市区町村としては県内最多。隣接する山梨市にも約14のワイナリーがあり、この2市だけで県内ワイナリーの半数以上を占めています(出典:甲州市公式サイト、山梨市公式サイト)。
この集積のはじまりは、明治10年(1877年)の「大日本山梨葡萄酒会社」設立にさかのぼります。
同年、当時19歳だった土屋龍憲(つちや たつのり)は、同志の高野正誠(たかの まさなり)とともにフランスへ渡りました。ワインなど飲んだこともなかった二人が、本場でぶどう栽培法と醸造技術をゼロから学び、およそ1年半後に帰国。
日本固有種の甲州ぶどうを使った本格ワインづくりに挑み、明治12年(1879年)に念願の国産本格ワインを完成させます(出典:甲府市「ワインが日本で最初につくられたのは甲府だった!」、山梨県ワイン酒造組合「山梨のワインの沿革史」)。
こうして甲州ぶどうとワイン醸造の技術が地域に根づいたことが、今日にいたるまでワイナリーが集まり続ける原点になりました。
そしてこの流れは、令和のいまも止まっていません。2020年には隣接する山梨市が「山梨市ワイン特区」として構造改革特別区域の認定を受けました。この特区の認定により、酒税法で定められた最低製造数量基準(果実酒は年間6kl)が、地場産のぶどうを使う場合にかぎり2klまで引き下げられます。これによって、小規模な“ガレージワイナリー”でも免許を取得しやすくなり、新規参入が加速しています。
代表企業・ブランド紹介
甲州市・山梨市には、明治創業の老舗から令和に誕生した新しい醸造所まで、幅広い顔ぶれのワイナリーが集まっています。
- まるき葡萄酒:1891年(明治24年)創業。現存する日本最古級のワイナリーのひとつで、150年近い歴史の中で培われた甲州ぶどう栽培のノウハウを受け継いでいます。
- 丸藤葡萄酒工業(ルバイヤート):明治時代創業の老舗。甲州種を使った繊細な白ワインで高い評価を受けています。
- シャトー勝沼:勝沼を代表するワイナリーのひとつで、見学・試飲設備も充実しています。
- メルシャン勝沼ワイナリー:大手メーカーの拠点として、伝統的な製法と最新技術の両方を取り入れた醸造を行っています。
老舗と新興ワイナリーが同じ地域に共存し、切磋琢磨しながら技術を磨き合っていることも、甲州市が“日本一のワイナリーの街”であり続ける理由のひとつです。
デザイン・技術のトレンド
近年の甲州市・山梨市のワインづくりでは、2つの潮流が注目されています。
ひとつは、先述した「ワイン特区」による小規模ワイナリーの増加です。
最低製造数量基準の緩和により、個人や小規模事業者でも醸造免許を取得しやすくなり、独自のこだわりを持った“ガレージワイナリー”が次々と誕生しています。
もうひとつは、日本固有種・甲州ぶどうの個性を引き出す醸造技術の進化です。
フランス伝統の「シュール・リー製法」(発酵後のオリを一定期間そのままにしてワインに触れさせる製法)を取り入れることで、甲州種ならではの繊細な香りと旨味に厚みを持たせる造り手が増えています。こうした技術力の高さが海外のワインコンクールでも評価され、輸出拡大の追い風になっています。
買う・見るなら、甲州市へ
現地でしか味わえない体験を求めるなら、まずは甲州市勝沼エリアを目指しましょう。
丘の上に立つ観光施設「勝沼ぶどうの丘」では、地下のワインカーヴでおよそ180種類ものワインを試飲でき、甲州市ワイン品質審査会に合格した“お墨付き”のワインだけを集めたコーナーもあります。甲府盆地と南アルプスを望むレストランや、ぶどう湯が楽しめる日帰り温泉施設も併設されており、ワイナリー巡りの拠点として便利です。
まるき葡萄酒やシャトー勝沼、丸藤葡萄酒工業など、徒歩や車で回れる距離にワイナリーが密集しているのも勝沼エリアならではの魅力。見学・試飲を受け付けているワイナリーも多く、造り手のこだわりを直接聞きながら味わえます。
おうちで楽しむなら、ふるさと納税も
現地まで足を運べなくても大丈夫です。甲州市は、ふるさと納税の返礼品としてもワインの品ぞろえが充実しています。
甲州市ワイン品質審査会を通過した「勝沼ぶどうの丘推奨ワイン」は代表的な返礼品のひとつで、白ワイン・赤ワインのセットは寄付金額1万円(税込・執筆時点)から選べます(出典:ふるさとチョイス)。デラウェアやナイアガラを使った甘口タイプから、甲州ぶどうを使った本格辛口タイプまで幅広くそろっているので、好みに合わせて選べるのも魅力です。
まとめ
山梨県のワイナリー数・ワイン製成量日本一は、単なる統計上の記録ではありません。
明治10年、フランスへ渡った二人の青年が持ち帰った技術という「人の物語」と、日本固有種・甲州ぶどうを育んだ峡東エリアの土地という「土地の物語」が150年近くにわたって積み重なり、今の“日本一のワイナリーの街”甲州市をつくり上げました。
老舗の重みと、ワイン特区が生み出す新しい挑戦。その両方が息づく甲州市のワイナリー巡りに、次の休日はぜひ出かけてみてください。
✅出典
