タオルの生産シェアで日本一を誇るのが愛媛県です。
その中心を担うのが、人口14万人ほどの一地方都市、今治市。国産タオルの実に6割前後が、ここで作られています。しかも今治は1960年代からずっとこの座を守り続けている"殿堂入り"の産地です。今治・泉州(大阪府)・おぼろ(三重県)と並ぶ「日本三大タオル産地」の中でも、今治は織機の生産能力で全国の過半を占める、圧倒的な存在感を誇ります。
なぜ、これほど小さなまちがタオル生産で独占的な地位を築けたのか。歴史を紐解くと、大阪でたまたま出会った一枚のタオルに人生を懸けた、一人の男の決断がありました。産地の中心地、代表するブランド、そして今のデザイントレンドまで、じっくり深掘りしていきます。
愛媛県がタオル生産日本一である理由
今治タオル工業組合によると、令和7年(2025年)の生産数量は6,535トン。組合員68社(令和8年4月現在)が1,131台の織機を稼働させ、1,796人がタオルづくりに携わっています。そして今治で作られるタオルは、国産タオル全体のおよそ6割にのぼります。
この強さは、最近になって急に生まれたものではありません。今治は1960年代以降、生産額で60年以上にわたり日本一の座を守り続けています。
日本タオル工業組合連合会の統計(2025年12月31日時点)を見ると、その差はより鮮明です。全国のタオル生産は実質的に今治と大阪(泉州)の2大産地に集約されていますが、織機の生産能力を示す換算台数では、今治が2,823.1台、大阪が2,234.9台。企業数は大阪よりやや少ないものの、生産能力では今治が全国の過半を占めています。
ただし、ここで一つ正確に押さえておきたい数字があります。
今治タオル工業組合の田中良史理事長は2025年6月、「国産タオルの中での6割」とは別に、輸入品も含めた国内タオル市場全体でのシェアを「2倍の20%」に引き上げたいと語りました。裏を返せば、海外からの輸入品が市場に大量に流れ込んでいる今、今治が誇る「6割」はあくまで国産タオルの中でのシェアであり、輸入品まで含めた市場全体で見ると、まだ半分にも満たない水準なのです。国産の中では圧倒的な王者でありながら、世界を相手にした戦いはこれからも続いている。この二つの数字の対比こそが、今治タオルの「今」を物語っています。
産地の中心は今治市。はじまりは阿部平助の決断でした
今治がタオル産地になったのは、1894年(明治27年)のこと。
綿ネル(起毛加工した木綿織物)の製造に携わっていた阿部平助(あべ へいすけ)が、大阪でたまたま手にした一枚のタオルに衝撃を受け、大阪・泉州でタオルの製造技術を学びました。そして地元・今治に戻ると、改良した織機4台を据え、タオル生産をスタートさせたのです。
この決断が実を結んだ背景には、今治という土地そのものが持つ強みがありました。
江戸時代から綿作が盛んだった土地柄に加え、地元を流れる蒼社川(そうじゃがわ)の水が軟水で、タオルの晒し・染色にうってつけだったのです。良質な水がなければ、白く柔らかいタオルは生まれません。人の決断と、土地の恵み。この両方がそろって、今治はタオルの産地へと育っていきました。
産業としての基盤も、着実に整えられていきます。
1952年(昭和27年)11月、中四国タオル調整組合が設立されると、1958年(昭和33年)に四国タオル工業組合へ改組、1964年(昭和39年)には出資組合に移行し、2017年(平成29年)1月には現在の「今治タオル工業組合」へと名称を改めました。
この間、今治は幾度となく産地存続の危機にも直面しています。
特に2000年代、海外製の安価なタオルが国内市場に流れ込み、産地が瀕死の状態に陥った際には、ブランディング・プロデューサーに佐藤可士和氏を迎えた「今治タオルプロジェクト」(2006年始動)が起死回生の一手となりました。地域団体商標「今治タオル」を取得し、独自の品質基準を打ち立てたことで、「安心・安全・高品質」なジャパンクオリティの代表格へと生まれ変わったのです。
現在は68社の企業が分業体制を敷き、糸づくりから染色、織り、仕上げまでを産地全体で支え合っています。この密な産業クラスターこそが、今治の品質と生産量を陰で支える屋台骨になっています。
代表企業・ブランド紹介
今治には老舗から新興ブランドまで、個性豊かなメーカーがそろっています。
藤高は、2019年に創業100周年を迎えた今治を代表するタオルメーカーです。国内タオル生産の売上高でNo.1を誇り、糸染めから仕上げまでを自社で手がける一貫生産体制が強みです。
IKEUCHI ORGANIC(旧・池内タオル)は、代表の池内計司氏が1983年に入社し、2代目社長に就任してから独自路線を歩んできたブランドです。風力発電由来のグリーン電力だけで織り上げる「風で織るタオル」で知られ、オーガニックコットンを中心とした環境配慮型のものづくりを徹底しています。創業60周年を機にデザイナーのナガオカケンメイ氏とブランドリニューアルを行い、社名そのものもIKEUCHI ORGANICへと変更しました。
丸栄タオルは、2004年に自社プライベートブランド「idee Zora」を立ち上げ、製造から販売までを一貫して手がけるSPA事業を展開しています。産地の企業でありながら、企画・製造・販売までを自社で完結させる姿勢が特徴です。
老舗の一貫生産力、環境配慮のものづくり、製販一体のブランド戦略。それぞれ違う強みを持つ企業が同じ産地に集まっているからこそ、今治は多様な需要に応えられる産地になっています。
デザイン・技術のトレンド
今治タオルの品質を支えているのが、「5秒ルール」と呼ばれる独自の吸水性検査です。
タオルの生地を1cm四方に切り取って水に浮かべ、5秒以内に沈めば合格。しかもこの検査は、未洗濯の状態と3回洗濯した状態の両方でクリアしなければなりません。
これに加えて、毛羽落ちの少なさを示す脱毛率、引っ掛けても抜けにくいパイル保持性、色褪せしにくさを示す耐光性、洗濯による縮みにくさを示す寸法変化率など、全12項目の厳しい審査をパスした商品だけが、「今治タオルブランド認定商品」を名乗ることができます。今治産と表示されていても、この認定をクリアしていなければ「今治タオル」を名乗れない、という徹底ぶりです。
デザイン面でも進化は止まりません。
2026年の今治タオルでは、表と裏で異なる色を楽しめるリバーシブルデザインや、唐草紋様・波紋様といった日本古来のモチーフをジャガード織で表現したデザイン、凹凸のあるワッフル織のアイテムがトレンドになっています。伝統的な織物技術と、時代に合わせたデザイン性を両立させているのが、今の今治タオルの姿です。
買う・見るなら、タオル美術館ICHIHIROへ
今治タオルの世界を実際に見て、体験したいなら「タオル美術館ICHIHIRO」がおすすめです。
タオルメーカーの一広株式会社が運営する5階建ての施設で、1階から4階の一部までは入場無料。1階のミュージアムカフェ、2階の四国物産コーナー、3階のタオルコレクションショップ・アウトレットに加え、4階では最新鋭の高速自動織機がタオルを織り上げる様子を無料で見学できる工場見学ブースもあります。
購入した商品にオリジナルの刺繍を入れてもらえるサービスも人気です。5階は有料フロアで、ムーミンの常設展など、タオルとアートを融合させたユニークな展示も楽しめます。
おうちで楽しむなら、ふるさと納税も
今治市のふるさと納税では、今治タオルを使った返礼品が数多くそろっています。
たとえば速乾タイプのフェイスタオル4〜12枚セットは寄付額約8,000円(執筆時点)から、雲のような肌ざわりが特徴の「雲ごこち」シリーズはバスタオルが約12,000円、フェイスタオル4枚セットが約17,000円、バスタオル2枚セットが約38,000円(いずれも執筆時点)で用意されています。産地に足を運ばなくても、今治の技術を毎日の暮らしに取り入れられるのが、ふるさと納税の魅力です。
まとめ
今治がタオル生産で日本一を守り続けてきた背景には、蒼社川の軟水という「土地の恵み」と、一枚のタオルに人生を懸けた阿部平助の決断、そして産地存続の危機を乗り越えた佐藤可士和氏とのブランディングという「人の物語」の両方がありました。
国産タオルの6割を担いながらも、輸入品を含めた市場全体ではまだ道半ば。それでも今治は、5秒ルールという厳しい品質基準と、時代に合わせたデザインの進化を武器に、これからも「タオルの聖地」であり続けようとしています。次にタオルを手に取るとき、その一枚に込められた今治の物語を、少し思い出してみてください。
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