さんまにいちばんお金を使っている街と聞いて、どこを思い浮かべますか?
水揚げで知られる北海道や三陸の港町を想像する人が多いかもしれません。ところが、総務省「家計調査」の最新データで全国1位に立っていたのは、日本海側の秋田県・秋田市でした。支出金額だけでなく、購入数量でも全国トップです。
しかもこの王座、昔から秋田市のものだったわけではありません。ほんの数年前まで首位の常連だったのは、お隣・岩手県の盛岡市でした。
さんまが記録的な不漁に見舞われたこの数年のあいだに、何が起きていたのか。数字をさかのぼると、王座が入れ替わった意外な経緯と、秋田市の食卓のくせが見えてきました。秋田市でさんまや地元の魚を買える場所まで、じっくり深掘りしていきます。
さんまの年間支出額日本一は秋田県(秋田市)
まず、データを確認しましょう。
総務省統計局「家計調査(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(2023年〜2025年平均)」によると、さんまの1世帯あたり年間支出金額は秋田市が979円で全国1位でした。全国平均は668円ですから、その約1.5倍を使っている計算です。
| 順位 | 市 | 年間支出金額 |
|---|---|---|
| - | 全国 | 668円 |
| 1位 | 秋田市(秋田県) | 979円 |
| 2位 | 札幌市(北海道) | 918円 |
| 3位 | 仙台市(宮城県) | 916円 |
| 4位 | 盛岡市(岩手県) | 910円 |
| 5位 | 水戸市(茨城県) | 878円 |
| 6位 | 山形市(山形県) | 847円 |
このランキングの対象は、47の都道府県庁所在市と、それ以外の政令指定都市5市を合わせた52市です。秋田県内で調査対象になっているのは秋田市なので、秋田市の1位がそのまま「秋田県の日本一」ということになります。
驚くのは、購入数量でも秋田市が1位だったことです。1世帯あたりの年間購入数量は707gで、全国平均425gの約1.7倍。2位の札幌市(672g)、3位の水戸市(665g)を抑えての首位でした。金額と数量の両方でトップに立つ、いわば"二冠"です。
金額を数量で割ってみると、秋田市は100gあたり約138円、全国平均は約157円になります。つまり秋田市は、高いさんまを少しだけ買っているのではありません。手ごろなさんまを、たくさん買っている街だとわかります。
ちなみに最下位は、金額が福井市の306円、数量が鹿児島市の169gでした。金額でみると、秋田市は福井市の約3.2倍をさんまに使っています。上位6市のうち5市が北海道・東北の街という顔ぶれも含めて、さんまは「北の食卓の魚」だということが、数字からもはっきり読み取れます。
実は"新王者"。長く首位だったのは盛岡市でした
では、秋田市はいつから1位だったのでしょうか。
総務省統計局が公開している過去のランキングで、さんまの支出金額をさかのぼってみると、王座の移り変わりがはっきり見えてきます。
| 集計期間 | 全国平均 | 1位 | 秋田市 |
|---|---|---|---|
| 2016年〜2018年平均 | 1021円 | 盛岡市(1917円) | 3位(1693円) |
| 2018年〜2020年平均 | 793円 | 盛岡市(1622円) | 4位(1131円) |
| 2019年〜2021年平均 | 571円 | 盛岡市(944円) | 2位(918円) |
| 2020年〜2022年平均 | 464円 | 秋田市(781円) | 1位 |
| 2021年〜2023年平均 | 418円 | 秋田市(711円) | 1位 |
| 2022年〜2024年平均 | 472円 | 秋田市(757円) | 1位 |
| 2023年〜2025年平均 | 668円 | 秋田市(979円) | 1位 |
2016年〜2018年平均の盛岡市は1917円。全国平均の2倍近くを使う、まさに"さんまの王者"でした。秋田市はこのとき3位です。
ところが2019年〜2021年平均で、盛岡市944円に対して秋田市918円と、差はわずか26円まで縮まります。そして2020年〜2022年平均で、秋田市がついに首位へ。そこから最新の2023年〜2025年平均まで、金額では4期連続で1位を守っています。盛岡市は最新のランキングで910円の4位です。
なお、購入数量では2022年〜2024年平均だけ札幌市(545g)が1位で、秋田市(539g)は6g差の2位でした。最新の集計で数量も取り返し、金額・数量揃っての首位に返り咲いたわけです。
記録的な不漁で、王者の順位が入れ替わった
表をもう一度見てください。全国平均の支出金額が、2016年〜2018年平均の1021円から、2021年〜2023年平均の418円まで、半分以下に落ち込んでいます。この時期に何があったのでしょうか。
答えは、さんまそのものの不漁です。全国さんま棒受網漁業協同組合の「さんまの水揚量(年)」によると、2008年に34万3225トンあった水揚量は、2019年に4万517トン、2021年に1万8291トン、2022年には1万7910トンまで減りました。1981年以降の統計のなかで、もっとも少ない数字です。店先からさんまが減り、値段も上がれば、家計の支出が落ちるのは当然でしょう。
もちろん秋田市も例外ではなく、支出額は2016年〜2018年平均の1693円から、2019年〜2021年平均には918円まで減りました。ただ、かつての王者・盛岡市の落ち込みはそれ以上で、同じ期間に1917円から944円へと半分以下になっています。上位の街が揃って大きく数字を落とすなか、減り方のわずかな違いが順位を入れ替えた、というのが王座交代の実像です。
そして最近は、明るい話もあります。同じ統計によると、水揚量は2023年に2万4433トン、2024年に3万8695トン、2025年に6万4738トンと3年続けて増えました。2025年は前年の約1.7倍です。ただし、2008年と比べるとまだ2割ほど。全国平均の支出金額が2023年〜2025年平均で668円まで持ち直したのも、この回復と歩調を合わせた動きといえます。
なぜ秋田市なのか。数字に見える"魚を量で買う食卓"
では、なぜ秋田市なのでしょうか。
意外なことに、秋田県はさんまの水揚げ地として知られる県ではありません。全国さんま棒受網漁業協同組合が公表している水揚状況の集計地域は、北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉、その他で、秋田県は個別の区分に入っていません。さんま漁の中心は太平洋側です。
さんまの支出が多い理由を、秋田市や総務省がはっきり説明しているわけではありません。ただ、同じ家計調査の魚介類ランキングを並べてみると、秋田市の食卓のくせが浮かび上がってきます。
- 鮮魚(購入数量):2万825gで全国3位(全国平均1万6810g)
- かれい(支出金額):1990円で全国2位(全国平均828円)
- さけ(支出金額):5835円で全国4位(全国平均5063円)
- いか(支出金額):2159円で全国5位(全国平均1648円)
一方で、まぐろは21位、たいは37位、ぶりは41位と、刺身や高級魚の印象が強い品目では上位に入っていません。鮮魚全体の支出金額も15位にとどまります。
つまり秋田市は、高い魚にお金をかける街というより、さんま・かれい・さけ・いかのような身近な魚を、量でたくさん買う街なのです。さんまで金額・数量の二冠を取り、100gあたりの単価が全国平均より安いという結果も、この傾向とぴったり重なります。
秋田はもともと、魚の食文化が根づいた土地でもあります。農林水産省「うちの郷土料理」では、ハタハタを塩漬けにして1年以上寝かせた魚醤「しょっつる」を、醤油が高級品だった時代に醤油の代わりとして編み出された秋田県の伝統的な調味料だと紹介しています。魚を余すところなく暮らしに取り入れてきた土地柄が、いまの家計簿にも表れているのかもしれません。
秋田でさんまと地元の魚を買うなら、駅前の秋田市民市場
実際に秋田の魚売り場をのぞいてみたいなら、JR秋田駅から徒歩約5分の「秋田市民市場」がおすすめです。
秋田市の観光・イベント情報総合サイト「アキタッチ+」では、地元でとれた新鮮な魚介、山菜、キノコ、果物など、秋田の旬の味が並ぶ駅前の市場として紹介されています。きりたんぽ鍋の材料や秋田の地酒も揃い、市場直営の回転寿司やお食事処もあります。
秋田市民市場の公式サイトによると、通常の営業時間は午前5時から午後6時まで(店舗により異なります)、定休日は日曜日で、駐車場は400台分あります。朝早くから開いているので、旅行の朝ごはんをかねて立ち寄るのもよいでしょう。
さんまの入荷は漁の状況に左右されるため、店頭に並ぶ時期や量は年によって変わります。日本一の街の人たちがどんな魚を手に取っているのか、鮮魚コーナーを歩いてみるだけでも発見があるはずです。
なお、営業時間や休業日は変わることがあります。訪れる前に最新情報を確認してください。
お取り寄せ・関連リンク
家でさんまを焼くなら、秋田らしい一工夫を加えてみるのもおすすめです。先ほど紹介した魚醤「しょっつる」は、ハタハタからつくる秋田の伝統調味料。塩焼きにしたさんまに、醤油の代わりにほんの少し垂らしてみると、魚どうしのうまみが重なった秋田流の一皿になります(※筆者からの提案です)。
しょっつるは秋田県外でも通販で手に入ります。日本一の街の食卓を思い浮かべながら、いつものさんまに合わせてみてはいかがでしょうか。
価格や在庫は変わることがあるため、購入前に各サイトで最新情報を確認してください。
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まとめ
さんまの年間支出額日本一は、秋田県の秋田市。1世帯あたり979円は全国平均の約1.5倍で、購入数量707gも全国1位の"二冠"でした。
この王座は、ほんの数年前まで盛岡市のものでした。さんまの水揚量が1981年以降で最少の水準まで落ち込み、どの街でも支出が大きく減るなかで、盛岡市の落ち込みが秋田市を上回り、2020年〜2022年平均で秋田市が首位に立ちます。そこから4期連続で1位を守り続けています。
背景に見えてくるのは、かれいやさけ、いかといった身近な魚を、量でたくさん買う秋田市の食卓です。さんまの水揚げ地として知られていない日本海側の街が、さんまを誰よりも食卓に並べている。そんな意外な事実を知ると、次にさんまを焼くとき、秋田の台所の風景が少し浮かんでくるのではないでしょうか。
✅出典