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餃子の購入額で日本一といえば、真っ先に名前が挙がるのが静岡県です。
しかもこれ、たまたま今年1位だったわけではありません。なんと3年連続、一度も王座を明け渡していないのです。
しかし、「餃子どころ」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、宇都宮ではないでしょうか。ところが総務省の公式データでは、いま購入額でトップに立っているのは静岡県・浜松市です。
なぜ「元祖」のイメージが強い宇都宮ではなく浜松がその座を守り続けているのか。理由を紐解くと、円形に並べてもやしを添える独自スタイルが生まれた、ちょっとした物語にたどり着きます。県内でも圧倒的な強さを誇る浜松市の実力、地元での楽しみ方、訪れたいお店まで、じっくり深掘りしていきます。
静岡県が餃子購入額日本一である理由
まずは、餃子に関するデータから見てみましょう。
総務省「家計調査」(2025年・2人以上世帯、都道府県庁所在市および政令指定都市が対象)の「ぎょうざ」購入金額ランキングによると、浜松市(静岡県)が1世帯あたり年間4,046円で全国1位となりました。
しかも2023年から3年連続の首位です。2位は宇都宮市(栃木県)で3,575円、3位は宮崎市(宮崎県)で3,418円。1位と2位の差は471円、率にして約13%もの開きがあります。
この調査自体は都道府県単位ではなく、都道府県庁所在市・政令指定都市を対象にした市区町村別ランキングです。
ただし静岡県からこの調査に登場する都市の中で最も高い金額を記録しているのが浜松市であるため、静岡県が実質的な「餃子購入額日本一の都道府県」といえるわけです。
では、なぜ静岡県の浜松市がこれほど強いのか。
ひとつは環境要因です。
戦後の物資不足の時代、浜松やその周辺地域で比較的手に入りやすかったのがキャベツ・玉ねぎ・豚肉でした。遠州地域はもともと温暖な気候に恵まれた野菜どころで、これらの食材が餃子のタネの主役になっていったのです。
もうひとつは歴史的背景です。
実は浜松では、全国に先駆けて大正時代からすでに焼き餃子が食べられていたことがわかっています。戦前より市内在住の中国人が中華料理の一品として提供していた記録が残っており、戦後は満州などから引き揚げてきた人たちが浜松駅前で屋台を開き、安くておいしい餃子として評判になりました。
この屋台文化が市内各地に広がっていったことが、今の「餃子のまち」の土台になっています。つまり、大正から続く食文化の蓄積と、戦後の屋台ブームという2つの歴史が積み重なって、今の日本一があるということです。
県内で圧倒的な強さを誇るのは浜松市
同じ総務省の調査には、静岡県からもう一つ、県庁所在地である静岡市も対象都市として含まれています。その静岡市の年間購入額は2,281円で、全国12位。浜松市の4,046円は、静岡市のおよそ1.8倍にあたります。
ちなみに静岡市は「ハンバーグ」の購入額では全国1位を記録しており、同じ静岡県内でも都市によって得意な料理がくっきり分かれているのがおもしろいところです。
なぜ浜松市がここまで突出しているのか。
前段で紹介した歴史的背景、つまり戦後の屋台文化がまさに浜松駅前一帯に集中して花開いたことに加え、もう一つ大きいのが組織的な取り組みです。
2005年に発足した「浜松餃子学会」は、餃子を通じて浜松の魅力を発信するボランティアのまちおこし団体です。
2006年には第一回浜松餃子まつりを開催し、翌2007年には浜松餃子マップを発表するなど、地域一丸となったブランディングを継続してきました。「3年以上浜松市内に居住し、浜松市内で製造されていること」という浜松餃子の独自定義まで定めており、単なる名物料理ではなく地域ブランドとして育て上げてきたのです。静岡市には同様の組織的な運動が見当たらず、この差が数字にも表れていると考えられます。
注目のトレンド:"円形×もやし"のスタイルはこうして生まれた
浜松餃子のアイデンティティーともいえるのが、円盤状に並べて焼く「円形焼き」と、真ん中に添えられた「もやし」です。
実はこのスタイル、1953年(昭和28年)に浜松駅前の屋台で創業した「石松餃子」が発祥だとされています。
開発秘話は、いかにも屋台らしい実用的な理由からはじまりました。
初代店主はもともと餃子を縦に並べて焼いていましたが、日ごとにお客が増えるなか、限られた調理スペースとフライパンの丸い形を最大限活かそうと、フライパンの縁に沿って円く並べて焼くスタイルを編み出したのです。
ところがこの焼き方には弱点がありました。円形に並べると真ん中がぽっかりと空いてしまい、見た目にどこか物足りなさが残ったのです。
そこで初代が「円形の真ん中がさみしい、見た目も味のうち」と考え、茹でもやしを添えたのがはじまりだといいます。
もやしは当時の浜松でも手に入りやすい食材だったうえ、脂っこくなりがちな餃子の合間にさっぱりと口直しできるという実用面でも理にかなっていました。見た目の工夫のつもりが、結果として餃子の脂を中和する箸休めにもなる。まさに一石二鳥のアイデアだったわけです。
このスタイルは石松餃子だけにとどまらず、浜松市内の餃子店に広く受け継がれ、今では「浜松餃子といえば円形×もやし」というイメージが定着しました。屋台の限られた条件から生まれた工夫が、70年以上たった今も浜松餃子の代名詞であり続けているのは、なんとも痛快な話です。
地元での楽しみ方(食べ方のコツ)
浜松餃子の楽しみ方は、意外なほどシンプルです。
調味料として用意されるのは餃子のたれとラー油、そしてコショウのみ。たれは酢醤油をベースにした西日本スタイルで、宇都宮餃子でよく見られる味噌だれとは一線を画します。
タネの主役はキャベツや玉ねぎなどの野菜で、豚肉はつなぎ程度に控えめ。野菜は焼き上がると水分がほどよく抜けてしっとりジューシーに変化し、豚肉のコクと合わさって、後味が軽い「あっさりジューシー」な味わいに仕上がります。真ん中のもやしは箸休めとして、餃子とセットで交互に味わうのが地元流です。
ちなみに浜松市は、餃子だけでなく楽器の生産量でも全国トップを走る「音楽の都」でもあります(詳しくはピアノ生産シェア日本一・浜松市の記事で深掘りしています)。餃子と楽器、一見つながりのなさそうな2つの日本一を同時に持つのも、浜松という街のユニークなところです。
訪れるならここ(代表的スポット)
浜松餃子は通年で楽しめるご当地グルメですが、せっかくなら元祖の味から食べ比べてみるのがおすすめです。
浜松餃子の原点をたどるなら「石松餃子」は外せません。
1953年(昭和28年)創業、円形×もやしのスタイルを生み出した元祖の店で、国産豚肉とたっぷりのキャベツを使った、飽きのこない味わいが特徴です。初代から受け継がれてきた秘伝のつなぎがうまさの決め手だといわれています。
予約の取りにくさで知られる名店が「浜松餃子むつぎく」です。
餃子専門店として長年地元で愛され続けており、電話がつながればラッキーといわれるほどの人気ぶりです。
製造の様子まで見学したいなら「浜太郎」がおすすめです。
餃子製造工場に店舗が併設されており、皮づくりの工房を見学できるほか、20種類以上の餃子や唐揚げを味わえるコースも用意されています。
毎年開催される「浜松餃子まつり」も見逃せません。
2006年に浜松餃子学会が第1回を開催して以来、市内各店が集結するイベントとして定着しており、一度に複数の店の味を食べ比べられる貴重な機会です。開催時期は年によって異なるため、訪問前に最新情報を確認することをおすすめします。
おうちで楽しむなら、ふるさと納税も
現地まで足を運べなくても、浜松餃子は自宅で楽しめます。浜松市はふるさと納税の返礼品としても餃子に力を入れており、複数の人気店の味が選べます。
浜松餃子学会認定商品を扱う「五味八珍」の浜松餃子をはじめ、たれ付きセットで届く「知久屋」の浜松餃子、定期便で継続的に楽しめる「孫悟空」の浜松餃子など、ラインナップは豊富です。
ほかにも石松の食べ比べセットや、地元で長年親しまれる「むつみ餃子」「いえやす餃子」など、さまざまなブランドが返礼品として用意されています。
詳しくは浜松市公式ふるさと納税サイトや、ふるさとチョイスをはじめとする主要ポータルサイトで「浜松餃子」と検索すると、各店の返礼品を比較できます。価格や内容量は改定される場合があるため、申し込み前に最新の情報を確認してください。
まとめ
静岡県・浜松市の餃子購入額日本一は、戦後の食材事情や大正時代からの中華料理文化という「土地の物語」と、フライパンの縁に沿って円く並べ、もやしで見た目を整えた屋台の工夫という「人の知恵」、さらに浜松餃子学会による地道なブランディングという「人の努力」がかけ合わさって生まれた記録でした。
「元祖」のイメージが強い宇都宮ではなく浜松がトップに立っているという意外性、そして円形×もやしという独自スタイルが生まれた開発秘話まで、知れば知るほど「へぇー」とうなずきたくなるエピソードが詰まっています。次に浜松餃子を目にしたときは、円く並んだ餃子ともやしの向こうにある物語も、ちょっと思い出してみてください。
✅出典
