道路を走ると、タイヤの音が勝手にメロディーになる。そんな不思議な道を「メロディーロード」といいます。
全国に42カ所ほどしかない珍しい道ですが、そのうち11カ所が集まっている県があります。群馬県です。
2位の北海道が6カ所ですから、ほぼ倍。しかも群馬県には「ぐんまメロディーライン」という統一ブランドまで用意されています。なぜ、これほど群馬県に音の鳴る道が集まったのでしょうか。
県内でいちばん密集しているエリア、そして2025年秋に生まれたばかりの11本目まで、じっくり紹介していきます。
群馬県がメロディーロード日本一である理由
まずはデータからみてみましょう。
群馬経済研究所の調査によると、走行音の反響でメロディーを奏でる道路は、2023年11月時点で全国に42カ所。都道府県別の内訳は次のとおりです。
| 順位 | 都道府県 | 設置数 |
|---|---|---|
| 1位 | 群馬県 | 10カ所 |
| 2位 | 北海道 | 6カ所 |
| 3位 | 広島県・愛媛県 | 各3カ所 |
この時点で既に2位の北海道に4カ所差をつけていましたが、その後2025年10月に安中市へ1カ所が加わり、群馬県の設置数は11カ所になりました。全国のおよそ4分の1が、この1県に集中している計算です。群馬県も公式に「その数は日本一」とうたっています。
では、なぜ群馬県だけがここまで増えたのでしょうか。
理由のひとつは、そもそもの目的が3つ重なっていることです。
群馬県県土整備部道路管理課によると、ぐんまメロディーラインの狙いは、①制限速度で走らないと曲に聞こえないためのスピード抑制、②メロディーによる居眠り運転の防止、③その土地にちなんだ曲を流すことによる観光地のイメージアップ、の3点。
つまり交通安全対策と観光振興を1本の道で同時にまかなえる装置として位置づけられているのです。山道・峠道が多く、かつ全国有数の温泉県でもある群馬県とは、相性がとてもよかったわけです。
もうひとつは、タイミングです。
県内の設置は2008年4月から2012年8月に集中しており、なかでも2010年から2011年にかけて一気に増えました。2011年の大型観光キャンペーンに合わせて、観光ルートを演出する仕掛けとしてまとめて整備されたためです。単発の思いつきではなく、県全体の観光戦略として面で導入されたことが、そのまま日本一の設置数につながりました。
ちなみに仕組み自体は群馬県の発明ではありません。
北海道標津町の建設会社が北海道立工業試験場と共同開発し、2004年に町道で実験したのがはじまりです。路面に深さ3〜6mmほどの細い溝を横方向へ連続して刻み、その間隔を変えることで音の高さを調整します。溝の間隔が狭いところは高い音、広いところは低い音。この単純な原理だけで、道路が唱歌を奏でてしまうのです。
県内最多は吾妻郡。4本が温泉エリアに集まっている
11カ所を市町村ごとに並べてみると、ひとつの地域が突出していることに気づきます。吾妻郡です。
- 草津町(国道292号)……「正調草津節」
- 中之条町四万(国道353号)……「いつも何度でも」
- 高山村中山(主要地方道渋川下新田線)……「星に願いを」
- 嬬恋村田代(主要地方道東御嬬恋線)……「雪山讃歌」
11本のうち4本、実に3分の1以上が吾妻郡の道に集まっています。人口はおよそ5万人規模の山間エリアですから、密度でいえば圧倒的です。
なぜここに集中したのかというと、選曲をみれば一目瞭然です。
草津町は草津温泉の湯もみ唄「正調草津節」。中之条町は四万温泉へ向かう国道353号に「いつも何度でも」。高山村は県立ぐんま天文台のお膝元らしく「星に願いを」。嬬恋村は雪山を望む道に「雪山讃歌」。どれも、その道の行き先そのものを1曲で言い表しています。
吾妻郡は草津・四万・万座・鹿沢と名湯が連なる、群馬県でも屈指の温泉エリアです。
温泉地へ向かう最後のひと区間で、その土地の歌が足元から流れてくる。観光PRの仕掛けとして、これ以上わかりやすい演出はなかなかありません。温泉地の数そのものでは北海道が日本一ですが、「温泉へ向かう道が歌う」という点では、群馬県が完全に先を行っています。
11本目は碓氷峠の「紅葉」。曲の生まれた峠に、曲が返ってきた
そして2025年、群馬県に11本目が加わりました。場所は安中市松井田町坂本、国道18号の旧道です。
安中市の発表によると、設置区間はレンガ造りの名橋「めがね橋」(碓氷第三橋梁)近くの下り車線側、安中市から軽井沢へ向かう約300m。群馬県安中土木事務所が施工し、2025年10月6日から供用が始まりました。目的は観光振興と、峠道の速度抑制による交通安全です。
流れる曲は、唱歌「紅葉(もみじ)」。
ここが、この1本の面白いところです。作詞した高野辰之は、信越本線の碓氷峠にあった熊ノ平駅(現在は廃止)から見た秋の景色に心を打たれ、この詞を書いたと伝えられています。1911年(明治44年)に尋常小学唱歌として世に出た「紅葉」が、114年の時を経て、その原風景といわれる峠に道路の歌として戻ってきたわけです。
秋にめがね橋周辺を訪れると、あたり一面が本物の紅葉に染まります。そのなかを、足元から「紅葉」を鳴らしながら走る。碓氷峠がなぜあの詞を生んだのかを、耳と目で同時に確かめられる区間になっています。
歌の生まれた土地を走る道は、もう1本ある
じつは「曲のふるさとを走る」パターンは、群馬県にもう1本あります。嬬恋村の「雪山讃歌」です。
この歌が生まれたのは1926年(大正15年)。京都帝国大学山岳部の面々が鹿沢温泉に合宿へ来ていたとき、吹雪で宿に閉じこめられてしまいました。やることもなく退屈した学生たちが、アメリカ民謡「いとしのクレメンタイン」の旋律に自分たちで詞をつけたのが「雪山讃歌」のはじまりです。中心にいたのが、のちに南極観測隊の初代越冬隊長を務める西堀栄三郎でした。
その鹿沢温泉には今も雪山讃歌の碑が立ち、旧鹿沢温泉から新鹿沢温泉へ向かう主要地方道東御嬬恋線に、メロディーラインが敷かれています。歌詞が書かれた宿のすぐそばの道が、その歌を鳴らしている。碓氷峠の「紅葉」と並んで、群馬県のメロディーラインの奥深さがよくわかる1本です。
ぐんまメロディーライン全11カ所
現在走れる11カ所を、まとめて一覧にしておきます。
| 市町村 | 曲名 | 路線 |
|---|---|---|
| 前橋市嶺町 | チューリップ | 国道353号 |
| 高崎市榛名湖町 | 静かな湖畔 | 主要地方道渋川松井田線 |
| 桐生市黒保根町水沼〜みどり市 | うさぎとかめ | 国道122号 |
| 安中市松井田町坂本 | 紅葉 | 国道18号(旧道・碓氷峠) |
| みなかみ町 | 四季の歌 | 国道291号 |
| 中之条町四万 | いつも何度でも | 国道353号 |
| 高山村中山 | 星に願いを | 主要地方道渋川下新田線 |
| 嬬恋村田代 | 雪山讃歌 | 主要地方道東御嬬恋線 |
| 草津町 | 正調草津節 | 国道292号 |
| 神流町 | こいのぼり | 国道462号 |
| 上野村 | うれしいひなまつり | 国道299号 |
選曲の理由がわかりやすいものが多いのも、ぐんまメロディーラインの楽しいところです。
榛名湖畔の「静かな湖畔」はそのまま湖の情景ですし、神流町の「こいのぼり」は、神流川の上空におよそ800匹の鯉のぼりが泳ぐ「かんな鯉のぼり祭り」(毎年5月上旬)にちなんでいます。上野村の「うれしいひなまつり」、前橋市の「チューリップ」と、季節の歌が県内に散らばっている構成です。
うまく聴くための走り方と、訪れる季節
メロディーラインは、走り方をひとつ間違えるだけで曲になりません。ポイントは3つです。
- 指定された速度をきっちり保つ:路面の溝の間隔は特定の速度で正しい音程になるよう計算されています。前橋市は約40km/h、高崎市の榛名湖や桐生市〜みどり市は約50km/hといった具合に区間ごとに異なるので、路肩の看板を必ず確認してください。速すぎても遅すぎても、曲は間の抜けた別の何かになります。
- 区間に入る手前で速度を合わせておく:開始地点の標示をみてから調整したのでは間に合いません。手前で速度を決め、そのまま一定で通過するのがコツです。
- 窓は閉め、エアコンや音楽は控えめに:音は車内に反響して届きます。カーオーディオを鳴らしたままだと、せっかくの旋律がかき消されてしまいます。
訪れる季節にも注意が必要です。
榛名湖・草津・嬬恋・碓氷峠といった標高の高い区間は、冬季に積雪や凍結、通行止めが発生します。
安全に楽しむなら春から秋がおすすめで、碓氷峠の「紅葉」に限っては、やはり紅葉の見頃を迎える10月下旬から11月上旬がいちばんの狙いどきでしょう。
なお、いずれも生活道路であり観光道路です。
曲に気を取られて急な減速をしたり、写真を撮るために路肩へ停めたりするのは危険です。後続車の有無を確かめながら、あくまで安全運転の範囲で楽しんでください。
同じ群馬県では、観測史上の最高気温でも日本一の記録が生まれています。夏の暑さと音の鳴る道、群馬県は極端な日本一を意外なほど多く抱えている県です。音にまつわる日本一という点では、楽器生産で日本一の浜松市もあわせて読むと面白いはずです。
まとめ
群馬県のメロディーロード日本一は、山道と峠道が多いという「地形の事情」と、交通安全と観光振興を1本の道でまかなおうとした「行政の発想」、そして2011年の観光キャンペーンという「タイミング」が重なって生まれた記録でした。
しかも、ただ数が多いだけではありません。温泉地へ向かう吾妻郡の4本、歌が生まれた峠に返ってきた碓氷峠の「紅葉」、歌詞が書かれた宿のそばを走る嬬恋の「雪山讃歌」。1本ずつに、その土地でなければ成立しない理由があります。
群馬県をドライブする予定があるなら、カーオーディオをいったん止めて、道そのものの歌に耳を澄ませてみてください。11本のうち1本でも走れば、この県が日本一である意味がすぐにわかるはずです。
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