メガネフレームの生産シェアで日本一を誇るのが福井県です。
その中心を担うのが、人口5万人ほどの小さなまち、鯖江市。国内で流通するメガネフレームの実に96%前後が、ここで作られています。
世界に目を向けても、イタリア・中国と肩を並べる"世界3大眼鏡産地"のひとつです。
なぜこれほど小さなまちが、これほど大きな産業を独占できたのか。歴史をひもとくと、貧しい農村を救おうとした一人の村議会議員の決断がありました。
産地の中心地、代表するブランド、そして今の技術トレンドまで、じっくり深掘りしていきます。
福井県がメガネフレーム生産日本一である理由
経済産業省の統計をもとにした調査によると、福井県は国内メガネフレームの品目別出荷金額ベースで約96.7%、事業所数ベースでも約89.2%を占めています。国内で流通しているメガネフレームの、10本のうち9本以上が福井県産という計算です。
このシェアを支えているのが、県内でも鯖江市に集積する眼鏡関連企業群です。
鯖江市単独で見ても国内シェア約94〜96%とされ、世界シェアでも約20%に達します。イタリア(北部ベッルーノ地方)、中国(広東省)と並び、「世界3大眼鏡産地」のひとつに数えられているのです。
驚くのは、このシェアがここ数年で急に生まれたものではないという点です。鯖江の眼鏡産地は昭和10年(1935年)にはすでに全国一の眼鏡枠産地に成長しており、実に90年近くにわたって王座を守り続けています。
産地の中心は鯖江市。はじまりは一人の村議会議員の決断でした
鯖江の眼鏡づくりは、明治38年(1905年)、当時の麻生津村(現・福井市生野町)出身で村会議員を務めていた増永五左衛門がはじめたことに端を発します。
五左衛門の故郷は田んぼが少なく、雪深い冬は仕事がない貧しい農村でした。この状況をなんとかしたいと考えた五左衛門が目をつけたのが、当時東京や大阪で行われていた眼鏡枠づくりです。新聞や書籍などの印刷文化が広がり、眼鏡の需要が高まりつつあった時代の追い風もありました。
五左衛門は工場を建てて大阪から職人を招き、農家の次男・三男たちに技術を学ばせました。冬でも収入を得られる仕事として村に根付いたこの産業は、次第に鯖江エリア全体へと広がり、昭和10年には全国一の眼鏡枠産地へと成長します。
現在、鯖江市には眼鏡関連企業が約450社集積しているとされ、フレームの設計から部品加工、組み立て、研磨まで、各工程を専門の職人・企業が分業する産業クラスターを形成しています。ひとつのメガネが完成するまでの工程は200以上ともいわれ、この徹底した分業体制こそが、高い品質と生産量を両立させてきた理由といえます。
代表企業・ブランド紹介
鯖江発のブランドとして特に知られているのが、産業の生みの親である増永五左衛門が創業した「増永眼鏡(MASUNAGA)」です。1905年の創業以来、デザインから完成まで約400の工程を自社で手がけ、販売まで自ら行う一貫体制を築いています。
1995年に立ち上げられた「999.9(フォーナインズ)」は、日本製アイウェアの代表格。着用者の顔の形やサイズに合わせて快適にフィットさせる設計思想で、幅広い層から支持を集めています。
2001年創業のブロスジャパンが手がける「BJ CLASSIC(ビージェイクラシック)」も、鯖江の技術力を象徴するブランドのひとつです。このほか、ayame(アヤメ)や金子眼鏡など、鯖江の伝統技術を土台にしたブランドが次々と生まれています。
デザイン・技術のトレンド
鯖江の技術力を語るうえで欠かせないのが、チタン加工です。
軽くて丈夫な一方、加工が難しいとされるチタンを、鯖江の職人たちは「冷間鍛造」という技法で使いこなしてきました。熱を加えず常温のまま圧力をかけて丸線を叩き伸ばすこの技法により、世界でもトップクラスの加工精度を実現。メガネフレームへのチタン活用を世界に先駆けて実用化したのも鯖江だといわれています。
近年ではさらに技術革新が進み、蝶番(ちょうつがい)を使わない一体構造のフレーム「ZEROGRA」のような製品も登場しました。2026年のトレンドとしては、カットされた面のきらめきを生かした多角形デザインや、高精度な3Dプリンターによるフルオーダーメイドフレームが注目を集めています。一人ひとりの顔立ちに合わせた"世界に一本だけ"のメガネが、これまでよりも身近になりつつあります。
買う・見るなら、めがねミュージアムへ
鯖江の眼鏡産業を実際に体感したいなら、まず訪れたいのが「めがねミュージアム」です。約100年前のめがね生産現場を再現した博物館ゾーンに加え、県内メーカー約50社が手がける3,000本以上のフレームを展示販売する直売ショップ、世界に一本だけの自分だけのメガネを作れる手づくり体験工房まで揃っています。
JR鯖江駅からめがねミュージアムまでの約900mの道は「めがねストリート」と呼ばれ、歩道のあちこちにメガネをモチーフにした仕掛けが施されており、歩くだけでも産地の雰囲気を味わえます。
おうちで楽しむなら、ふるさと納税も
鯖江まで足を運べない人には、鯖江市のふるさと納税「めがね引換券」がおすすめです。
寄付額に応じてシルバー(寄付7万円・2万円相当)からプラチナ(寄付34万円・10万円相当)までのコースが用意されており、有効期限を気にせず好きなタイミングで、全国にある対象店舗(MASUNAGA1905、さばえめがね館など)から"自分に似合う一本"を選んで引き換えられる仕組みです。
まとめ
福井県、そして鯖江市がメガネフレーム生産で日本一であり続けているのは、単なる偶然ではありません。
貧しい農村を救おうとした一人の村議会議員の決断からはじまり、約450社もの企業が分業で支え合う産業クラスターへと育ち、難加工金属のチタンさえも使いこなす技術力を磨き上げてきた、120年近い"人が紡いだ物語"の積み重ねです。次にメガネをかけるとき、そのフレームがどこで、どんな職人の手によって作られたものか、ふと思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
番外編:"作る"日本一だけではなく、"かける"側にも日本一があった
メガネをかける人にも実は"日本一"がありました。
近視の重さ(度の強さ)で全国一なのは京都府(6〜35歳の近視用メガネ購入者、右眼近視度数平均-3.698D)、逆にもっとも軽いのは長野県(-3.391D)。JINSと大阪大学の共同研究が2025年6月の日本近視学会総会で発表したデータです。
またメガネそのものの着用率では秋田県が日本一(76.4%)、最下位は栃木県(62.5%)でした(JINS「メガネ白書2022」、都道府県別調査)。
ちなみにサングラス使用率は沖縄県が別の1位(28.7%)で、九州・沖縄勢が上位を占めています。
市区町村別のデータは非公表ですが、近視の進行は男性7歳・女性6歳が最速という年代別の傾向もわかっています。鯖江が支える"作る"側の日本一と、視力という"かける"側の日本一。あわせて知ると、メガネという身近な存在が一段とおもしろく見えてきます。
✅出典
- 鯖江のメガネとは?|さばえめがね館
- 大阪税関「鯖江生まれ、関空巣立ち~眼鏡のフレームの輸出~」
- ふくい歴史王「眼鏡産業の父、増永五左エ門」
- MEGANE MUSEUM「めがね産地『福井・鯖江』の歴史」
- 増永眼鏡株式会社 公式(JAPAN GLASSES FACTORY)
- キッソオ「鯖江(メガネの製造シェア96%)」
- 眼鏡市場「鯖江のチタン加工技術を結集した蝶番のないメガネ『ZEROGRA』」
- みるラボ「2026年のメガネトレンドは?」
- 鯖江市公式「めがねミュージアム」
- 鯖江市公式「さばえの眼鏡をふるさと納税で」
- JINSと大学研究機関が、全国ビッグデータで明らかに(PR TIMES)
- 10月10日“目の愛護デー”にあわせて、メガネやサングラスに関する実態調査「メガネ白書2022」を発行(PR TIMES)
- 眼鏡をよくかける都道府県 3位「兵庫県」、2位「三重県」、1位は?(ITmedia ビジネスオンライン)
